このコラムでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)にはじめて関わる方、これからDXに取り組まれる方を対象に、DXとは何か?また企業がDXに取り組む際のポイントについてお伝えします。
■前回までのおさらい
前回(第5回目)でも、なぜいまDXが注目されているのか?2つ挙げた理由のうち2点目「産業の創造的破壊とゲームチェンジ」を取り上げました。
創造的破壊、ゲームチェンジが繰り返される事業環境においてDXを推進していくにあたっては、経営・事業戦略を捉えた全社的な組織・体制の取り組みが重要であることを解説しました。今回はその続きとして「制度・プロセス」に関わる取り組みについて、DX推進企業の事例を交えてお伝えします。
■DX推進のための制度、仕組みづくり
前回もご紹介した「攻めのIT経営銘柄2019」※1では、経営革新、収益水準・生産性の向上をもたらす積極的なIT利活用に取り組んでいる企業を選定し、その活用事例やアンケート結果を紹介しています。
そのアンケート調査結果より「データとデジタル技術を活用した新たな取組等(省略)を支援する制度、仕組みがあるか?」との質問に対して「ある」と回答したDX推進企業が97%と、その他企業と比較しかなり高い結果となっています。
図:攻めのIT経営銘柄2019 アンケート調査結果より
このアンケート結果から、DX推進のためには前回のコラムで解説した組織・体制構築のほか、企業内に新たな取り組みを支援する制度や仕組みづくりも必要であることがわかります。
ではDX推進にあたって各企業でどのような制度、仕組みをもっているのでしょうか。いくつか事例を紹介します。
①ある不動産会社では、企画部門において社員個人が持っているDXアイデアを引き出して新事業創出を促していくための取組みとして、予算・人事・インセンティブ面でのサポートを充実させた事業提案制度を設けています。
②また、システムインテグレーターのある企業では、社内で新規デジタルビジネスを創出できる人材の不足に課題がありました。そこで各事業部門がもつ既存サービスのDXを実現する推進チームを各事業部内に発足して、全社でDX人材育成の好事例を共有しあう取り組みを進めています。
③そして、ある商社においては社員のデジタルサービスにおける情報共有と、活発なコミュニケーションの拠点となるスペースを社内に設け、最新の IoT や AI 等の体験を意見交換できるようにするほか、出したアイデアが即、DX推進につながるように各事業に対して個別にDX予算をつける制度を導入しています。
④最後の事例です。ある企業では以前から社長と社員との1対1の面談を定期的に行っていました。業務上の課題点や会社に対する要望を社長自身が肌身で感じる場として有効なものでしたが、社内にDX推進組織を立ち上げて以降は、社長自身が社内のIT環境やデジタルマーケティング、世の中のデジタル動向で感じている点などDX観点でも積極的にヒアリングし、全社的なDX推進を社員に意識づける取り組みを行っています。
いかがでしょうか。DX推進のためには、組織体制の構築のみならず、社内の新しい挑戦、継続的な挑戦のマインドセット醸成、活動を支援する制度が必要となることがイメージできたのではないでしょうか。
■DX推進のプロセス(過程や方法)
上述した制度を導入後、実際にDXを推進することを考えてみましょう。例えば以下のようなプロジェクトを想定します。
・RPAを導入し、社内の運用業務の自動化、効率化
・旧態依然の社内の基幹システムをクラウド型サービス上に刷新
・AI技術を活用しマーケティング自動化の実現
・先端デジタル技術を活用した新たなシェアリングエコノミーサービスを事業化
それぞれ目的が異なるため、当然ながら実現するためのプロセス(過程や方法)も様々です。しかしDX推進のプロセスにおいて共通する観点が2点あります。
①機能やサービスの細分化
②情報(データ)の集約化
それぞれについて解説していきます。
①機能やサービスの細分化
上記で挙げたうち「旧態依然の社内の基幹システムをクラウド型サービス上に刷新」のDX推進の例で考えてみます。社内の基幹システムの刷新となれば、大規模なシステム開発、導入となります。かつてのシステム開発プロジェクトでは下図のようなウォーターフォール型の開発が主流でした。ウォーターフォール型開発とは、システムの開発を上流から下流までの複数の工程に分けて順に段階を経て開発する方法です。 前の工程には戻らない前提があり、下流から上流へは戻らない水の流れにたとえてウォーターフォールと呼ばれています。プロジェクト終了までビジネス要求の変化がない(もしくは変化が予測可能な範囲内である)ことを前提に開発フェーズで定義した要件に従って品質、コスト、期間がしっかり守って開発されます。
図:ウォーターフォール型開発
しかし、産業の創造的破壊とゲームチェンジが短いスパンで起こり得る今の時代、数年間かかる長期プロジェクトであれば、開発途中にビジネス要求が変わることは容易に想像できます。そこでビジネス要求が変わることを受け入れて、変化に適応する取り組みが求められます。
かつては、システム資産を自社で「保有する」ことが主流の時代でしたが、現在はクラウドサービスを「利用する」時代に変化しつつあります。クラウドサービスは利用したいサービスをニーズにあわせてボリューム、期間を決めて利用できる利点があり、DX推進においてはクラウドサービスのこの利点を活かしてシステムを段階的に細分化して開発するケース、いわゆるスモールスタート※2やアジャイル開発※3の手法を採用する事例が増えてきています。
図:段階的な開発・移行モデル
上図は段階的な開発・移行モデルの例ですが、先ずは特定の機能(機能A)をスピード重視で先行移行(開発)します。先行移行する対象をどの機能にするか、その判断は企業によって様々ですが、比較的導入しやすく小規模な業務、事業を選定するケースが多いようです。この手法のメリットは、次のステップ以降、前のステップの開発実績に基づいて手戻りのないスピード感の高い移行を進めることができる点、また前のステップを対応した後に発生したビジネス要求の変化を後続のステップで取り込むことを選択できる点です。(段階的な開発・移行モデルの詳細は、次回以降のコラム内でも解説します。)
②情報(データ)の集約化
機能やサービスの細分化をそのまま進めた場合、各機能・サービスに情報が分散、分断されてしまう点が懸念されます。ビッグデータを活用したビジネスの高度化を図っている企業が増えているなかで、情報(データ)全社的に集約することが重要です。
そのための取組として、企業内の各システム、データをETL ※4、EAI ※5といったシステムでつなぎ合わせることで情報を集約化する事例があります。あわせて、各システム、ユーザー部門が持っている情報の種類をシステム部門が正確に把握できるようITガバナンスを整備する事例もあります。
■まとめ
経済産業省は2020年春に、企業の戦略的なシステムの利用の在り方を提示する指針として「デジタルガバナンス・コード」を作成し、またあわせて同指針に沿った優良な取り組みを続ける企業の格付け制度「DX格付(仮称)」をスタートさせて企業のDXを後押ししていく方針※6です。2020年以降もますます企業でDXが推進される一年になりそうです。
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さて、早いもので2019年のブログ投稿も今回が最後です。DXの時代ブログをお読みいただいている皆様、今年一年ありがとうございました。2020年からはより具体的なDXの進め方についての解説をスタート予定です。また来年もよろしくお願いいたします。
以上
注釈
※1: 経済産業省 攻めのIT銘柄2019 https://www.meti.go.jp/press/2019/04/20190423004/20190423004-3.pdf
東京証券取引所(一部、二部、ジャスダック、マザーズ)上場会社約3,600社を対象に「攻めのIT経営に関するアンケート調査2019」を実施、うち、エントリーいただいた企業448社を「攻めのIT経営銘柄2019」として選定対象としている。
※2:スモール‐スタート(small start)とは、 新たな事業を立ち上げる際に、最初は機能やサービスを限定するなどして小規模に展開し、需要の増大などに応じて順次規模を拡大させていくこと。
※3:アジャイル開発は、迅速かつ適応的にソフトウェア開発を行う軽量な開発手法である。
※4:ETLとは、Extract、Transform、Loadの略で、企業内に存在する複数のシステムからデータを抽出し、抽出したデータを変換/加工した上でデータウェアハウス等へ渡す処理、およびそれを支援するソフトウェア
※5:EAI とは、Enterprise Application Integrationの略で、企業内における多種多様なコンピュータシステム群や各種ビジネスパッケージ群を有機的に連携/統合させ再構築し、より戦略的な機能や情報として提供する機能及びミドルウェア / アプリケーションパッケージや統合技術
※6: 日経xTECH記事より引用 「2025年の崖を回避せよ!経済産業省が企業の「DX格付け制度」を始める理由」 https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00001/03081/?P=1
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