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コラム DX時代~番外編:フィリップ・コトラー リテール4.0 DX時代の10の法則

  • hiro876
  • 2021年3月30日
  • 読了時間: 8分

このコラムでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)に初めて関わる、またこれからDXに取り組む企業経営者やマネージャーの方々を対象に、DXに取り組む際のポイントについてお伝えしています。

近頃は街の本屋さんに行く機会も減り、電子書籍ばかりを読むようになりました。自宅の本棚が満杯になることも無くなったのですが、読まれないままに放置された電子書籍たちが仮想の本棚に山積みの状態で、デジタル化されても本棚の様子は相変わらずです。

さて、そんななか電子書籍で今年4月に出版されました「コトラーのリテール4.0 デジタルトランスフォーメーション時代の10の法則」を読みました。私もこれまでECサービスを中心に小売業の企業を支援してきましたが、小売業界を取り巻くDXの状況を理解するのに大変参考になりましたので、このコラムでも紹介したいと思います。

内容盛りだくさんの本ですので序盤だけですが今回は前編としてお伝えします。

■はじめに ~今回のポイント~

今回は次の4点についてお伝えします。

  •  リテール4.0とは?

  • 「民主化」と「中抜き現象」

  •  B2C、B2BからH2Hへ

  •  デジタルからリアルへの誘導


■リテール4.0とは?

この本の著者は「近代マーケティングの父」とも呼ばれるフィリップ・コトラーと、気鋭のイタリア人マーケティング研究者のジュゼッペ・スティリアーノです。

コトラーはこの本の目的を「DX(デジタルトランスフォーメーション)がリテール(小売)業界にあたえるインパクトを具体的に理解・管理するための考え方を読者に提供すること」と述べています。

さて、この本のタイトルでもあるリテール4.0とは何でしょうか。コトラーは過去にリテール業界で起きてきたパラダイムチェンジをリテール1.0~3.0の3段階で次のように定義してきました。そして今年、リテール3.0を超越すると想定される考え方として、リテール4.0を定義しました。

リテール4.0とは『近年のデジタル技術の急加速によるDXが中核となり、小売業界のルールを激変させる新たなパラダイムチェンジ』のこと、要するにこれからのリテールの主役はデジタルということです。

 

■「民主化」と「中抜き現象」

コトラーは、デジタル技術が急加速するなかで、小売ビジネスに携わるすべての人々が最優先にDXに取り組むべきと説きます。小売業はDXによってSNSを中心とした「民主化」、ユーザー直接取引による「中抜き現象」という重要な事象につながったと述べています。

●SNSを中心とした「民主化」

誰もがスマートフォンやタブレットといったスマートデバイスをもち、高速通信のインターネット環境も整備されました。これによりデジタル活用のコスト低下、技術使用の簡易化が進み、人々は自分の欲しいコンテンツ、情報、財、サービスをいつでも利用できるようになりました。

例えば、ある日訪れたお店で販売されているパンについて味や品質を知ってから購入したいとしましょう。リテール3.0以前はお店の人に直接聞く、あるいは雑誌やホームページなどのメディアから情報を得る必要がありました。リテール4.0の現在、移動中やお店の中でスマートデバイスを使ってSNSなどにアクセスし、口コミ情報など気軽に入手することができるようになりました。消費者は企業よりもずっと速いスピードでデジタルに対応していますので、情報の民主化がますます進んでいくことでしょう。

  

●ユーザー直接取引による「中抜き現象」

流通はこれまで伝統的に製造会社⇒卸売会社(元卸)⇒卸売会社(中間卸)⇒卸売会社(最終卸)⇒店舗⇒消費者といった経路をたどってきました。しかしDXが進んできた今日、この仲介を迂回して製造販売会社⇒消費者といったようにコンテンツや商品が消費者に直接到達できるようになりました。

メルカリをはじめ、デジタルを中心としたプラットフォーム上で消費者が欲しいと思う商品を直接購入し、届けてくれるサービスが、リテール4.0の現在ではもはや当たり前になりました。


■B2B/B2CからH2Hへ

コトラーは、リテール4.0においてB2B(企業対企業)、B2C(企業対消費者)といった区別は古くなったと述べています。前に述べたデジタル技術の普及による民主化や中抜き現象といった変化により、企業が消費者に直接コンタクトをとれるようになったためです。また人々が企業内のみならずプライベートでもスマートデバイス活用やオンラインサイト購入などに慣れていくことから、B2Bならではの営業の性質やおおげさな見せ方や商談がなくなり、結果「B2B、B2Cは類似していき期待される水準も同等のH2H(人間対人間)という広い概念に溶け込む」と述べています。

今年のコロナ禍で一気に普及したZoomなどのオンライン会議サービスは、法人利用、個人利用を問わず、同じデジタルサービスが広く活用されるようになりました。これはサービスを提供する側にとってもB2B、B2Cが類似していき期待される水準が同等になってきた一つの例といえるでしょう。

■デジタルからリアルへの誘導

リテール3.0の時代、リアル店舗からオンラインへと購買がシフトしていく中で、リアル店舗が対応する課題の一つがショールーミングでした。ショールーミングとは、リアル店舗で商品を確認し、帰宅後に同じ商品を最も安く買えるお得なECサイトで注文する、といった「リアル店舗ではじまりオンラインで完結」する購買行動です。 

しかし、スマートデバイスがパーソナルメディアとなって、すべての人々、企業が常につながりをもてる対象となったことで、新たにウェブルーミングという購買行動が起きています。ウェブルーミングとは、オンラインで商品情報を確認してから、リアル店舗で最終確認をして購入する、といった「オンラインではじまりリアル店舗で完結」する購買行動です。

かつては、オンラインで購買した方が低価格で購入でき、家まで配送してくれるなどのメリットがありました。しかし近年、実店舗とオンラインストアの価格差が少なくなったなかで、オンラインの情報を確認するだけでは満たせない購買体験を消費者が探求するようになってきました。例えば購買について専門家の助言を求めたい、モノに実際に触れてみたいといったことです。そのような消費者のニーズに対応すべく、流通の仕組みはリアル店舗での探求とオンラインでの確認をリピート(行き来)するかたちでオムニチャネル化してきました。

(オムニチャネルとは、オンラインだけでなくリアル店舗などの場を含めたあらゆるチャネルを連携させて消費者との接点を持つ方法)

企業側もオンラインの利便性とリアル店舗の体験といった両方の良い部分をうまく融合して、消費者の欲求に幅広く対応することが求められます。

イケア・ジャパンの対応事例をご紹介します。イケアはスウェーデン発祥で世界各地に出店している世界最大の家具量販店です。巨大な店舗のショールームで消費者が商品を選び購入、持ち帰ってもらう販売モデルが主体です。

イケアは今年、オンラインストアと連動した新しいかたちのリアル店舗 IKEA原宿をオープンしました。従来の郊外の大型店舗ではなく、都心にある小型店舗で従来の販売モデルからの脱却を目指しています。

IKEA原宿では、実際に商品を手に取って見て、そのままお持ち帰り・配送できるように商品を取り揃えていることはもちろん、お買い物がオンラインストアでも楽しんでもらえるように、AR(拡張現実)技術を用いたスマートフォンアプリを使って店内の家具にカメラを向けるとオンラインストアに連動したり、また自宅に帰ってから家具の配置をシミュレーションしたりできるような新しいサービスを取り入れています。

また近年のコロナ禍で、デリバリーやオンラインサービスが広く利用されていく中でも、リアル店舗ならではの商品・サービスに直接触れあえるメリットを生かした体験型で消費者に寄り添った高度なサービスを提供することが求められています。イケア原宿でもスウェーデンフードが楽しめるカフェが併設されており、原宿という立地もあり、若者を中心に店舗からSNS上でレビューや口コミにより消費者に参加意識を持たせることにもつながるでしょうし、新しいかたちのリアル店舗として旗艦店となっていくことでしょう。

「オンラインとオフライン(リアル店舗)のチャネルの相互補完こそが、小売業界の未来に向けたカギである」とコトラーも述べています。


■リテール4.0「10の法則」 (※次回以降解説予定)

そしてこの本の中で、DXをリテール業界の好機とするためのリテール4.0における10の法則として「1. 不可視であれ」、「2. シームレスであれ」、「3. 目的地であれ」、「4. 誠実であれ」、「5. パーソナルであれ」、「6. キュレーターであれ」、「7. 人間的であれ」、「8. バウンドレスであれ」、「9. エクスポネンシャルであれ」、「10. 勇敢であれ」の10の法則を提示しています。次回はリテール4.0における10の法則の概要を解説したいと思います。



■今回のまとめ

  •  リテール4.0の主役はデジタル

  •  デジタルによる「民主化」と「中抜き現象」が進む中で、小売ビジネスに携わるすべての人々が最優先にDXに取り組むべき

  •  B2C、B2Bと分かれていたサービスも、デジタル化の中でH2H(人間対人間)という広い概念に集約されていく

  •  オンラインとオフライン(リアル店舗)のチャネルの相互補完こそが、小売業界の未来に向けたカギ


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